個の力


昔、友人と村の起源について語り合ったことがある。

『昔々、ある日和の良い日、旅人が峠で一休み、ふと見るときれいな湧き水が、、。喉が渇いていた旅人は、その水をゴクゴク。「なんと美味しい水だろう。」ひとごこちついて目を移すと、美し山々が視界に広がる。「なんてきれいなんだ。」旅人は思う。「ここで茶屋でもあれば皆喜ぶんじゃないかな?」翌年旅人はそこに庵を建て茶屋を営むことになる。美味しいお茶と美しい景色は評判となり、そこには旅人たちが集まって来るようになる。旅人たちはお茶を飲みながら商談し、やがて市が開かれるようになる。旅籠ができ、店がならび、人々は定住するようになり、村のかたちができていく。時が過ぎ村は町の様相を呈してくるが、そのころには一体この町がいつからあるのか、誰がひらいたのか?誰にも分からなくなる。或る者は最初に旅籠を営んだ主人の名を挙げ、或る者は市で大成功した者の名前を挙げる。旅人と湧き水の出会いなど誰も知らない。』

それでも村を創ったのは紛れもなくその旅人であった。誰も名前を覚えていない。誰も感謝せず褒めることもない。でも、その旅人がいなければその村はなかったし皆そこに存在しなかったかもしれない。旅人に特に才覚があったわけでも、野望があったわけない。ただ美味しいお茶を出し続け、身内だけに看取られてその人生を終える。

歴史に彼の名前は残らない。それでも彼がそこが舞台となる歴史を創ったという事実は紛れもない。そして彼は世界の一端を確実に担った。

何を言っているか分からないかもしれない。でも僕はこういった個の力を信じている。そうすれば世界創造の一端そしてその展開の責は常に我にあるということ。一生懸命生きようと思う。人の価値はなんにあるか考えようと思う。
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