キリスト教の中核に封印されたイスラームの生命


13世紀に盛期を迎えるスコラ哲学はギリシャの哲学者アリストテレスの思想を中核に据えるが、そのアリストテレスの全著作に関する膨大な註釈を著しアリストテレスの真の姿を示そうとした12世紀の学者がいた。哲学者であり、医師であり、法律家であった、アヴェロエス(1126〜98年)その人である。彼の著作は後の宗教家、哲学者に多大な影響を与え、スコラ哲学の中核をなす思想が形成されていった。

スペイン、コルドバ生まれのアヴェロエス、しかしながら、彼はキリスト教徒ではない。彼はイスラーム国家のカリフに仕えるムスリム、アラブ人であった。彼の本名はイブン・ルシュド(Ibn Rushd)という。彼は、マーリク派法学者の家に生まれて法学・哲学・医学の研究を重ね、1182年ムワッヒド朝のカリフ、アブー・ヤークーブ・ユースフの宮廷医師およびコルドバの大カーディー(裁判官)となり指導的な学者として権勢を誇った、イスラームの中核に在った人物である。

12世紀にヨーロッパに起こる知的関心と研究活動の開花によって起こる古典の探究は、イスラム圏においてはすでに7世紀から始まり、12世紀には完成されたものとなっていた。その最終形とも言える研究書を著したのがイブン・ルシュドすなわちアヴェロエスであった。

彼の死後、著作はラテン語に翻訳され、ヨーロッパ全土に広がっていくことになる。ラテン語の翻訳版には著者はアヴェロエスと表記された為、彼がキリスト教徒、或いはモサラベであったと考えられた誤謬の時期もあった。

中世におけるイスラム圏とキリスト教圏の文化レベルの差を示す例ともいえる。

*アヴェロエスの映画がDVDになっている。邦題「炎のアンダルシア」※映画自体のできとしては今一だった(笑)

                                                   


2006/06/10追記
 
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