ちょっと似すぎ!? part 18



連続交差アーチの起原イメージの起源

C: コルドバのモスクのコラムとアーチによる無限連続空間
引用写真:http://www.fullscreenqtvr.com/02panoramasdk41_48.html



 残念なことに、まともな形で確認できるスペインのイスラーム時代の初期の建築は、殆ど残っていない。それ故、787年に建設が始まったコルドバのメスキータ(モスク)から、832-848年のその増築部分はあるものの、936年に建設が始まったマディナ・アルザフラ宮殿まで、殆ど建築様式の発展を確認できない約100年の空白期間がある。その期間に重要な建築物が、おそらく歴代のカリフや主要都市の有力アラブ族やイスラームに改宗した西ゴード族の旧貴族たちに建設されたはずなのだが、、、、、。とういう訳で、936年−961年に建設されたマディナ・アルザフラはいきなり完成度の高い形で登場する(最も後ウマイヤ朝末期混乱期に粉々に破壊された為、その一部が復元されているのみであるのだが、、、)。そしてそれに引き続き建設されたコルドバのメスキータの増築も、以前の部分からは全く次元の違う完成度で突如登場した様に見える。

 したがって、連続交差アーチの起源を辿ってみても、それを961年以降のメスキータの増築部分にしか見いだせない。その直前に建設されたマディナ・アルザフラでは、それに連続交差アーチのモティーフが使われていたとしても、前述の理由で少なくとも復元部分には見られない。スペインの建築史家たちにその調査を期待するしかないのが現状である。そういう訳で現在のところ、それが初めて登場した時期については、961年には既に完全な形をしたモティーフとして完成されていたとする他はない。

 しかしながら、その形態の登場の起源については、幾ばくかの考察は可能であろう。現存する最古の連続交差アーチ(
コルドバのモスクの外壁の門961/62)を詳細に観察すると、アーチの組合せが単純に平面的に配置されたものではなく、その配置が2系列のアーチで構成されたアーケードが織り合わされていることがわかる(下写真A)。つまり壁面に付加された装飾であるにも関わらず、そのアーケードには前後関係があるということである。このことからこのモティーフが空間的に表現されたものの平面的な記号化あるいは象徴化であると想定できる。これをもって、コルドバのメスキータの内部空間を撮影した下の写真Bに注目して欲しい。どうだろう?、、、、。連続交差アーチが見えただろうか?、、、、。連続交差アーチは、、この空間のイメージを表現したものではないのだろうか? 恐らく、卓越した審美眼をもったイスラームの工匠は、この他に例を見ない荘厳なイメージ(写真C)を表現したかったに違いない。すなわち、この永久に繰り返される様にも思える、列柱とアーチを持つイスラーム建築特有の多柱様式のモスクなくしては、連続交差アーチは登場し得なかったといえるのではないのだろうか? と、すれば、連続交差アーチは、第1期のメスキータが完成された、787年以前には存在しなかっと言えるだろう。

 ちょっと似すぎシリーズでイギリスやフランスのノルマン様式の建築の連続交差アーチを、コルドバの交差アーチの系列として同列に加えているが、その根拠もここにある。すなわち、ノルマン様式の連続アーチもまた、前述の様にその構成に前後関係のある、2系列のアーケードを持っているのである。これは、空間的表現の平面的記号化として説明する以外に説明の術をもたないのではないのだろうか?(もちろん、イギリスにも、フランスにも、その様な多柱空間は存在しない)。

A: コルドバのモスクの外壁の門961/62 B: コルドバのモスクの多柱空間


2006/01/16//2006/01/28追記修正
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