ちょっと似すぎpart5/改めクリュニー修道院とイスラム文化 part7


ちょっと似すぎ!?part4の続きですが、今回はpart1で紹介した、英国のエセックス州のコルチェスターにある聖ボトルフ小修道院です。この小修道院についてはあまり詳しいことが分かってないようです。また聖ボトルフ(サクソンの大修道院長で 654 年 Icanhoe に修道院を建てた。680年頃に死亡)についても詳しいことはわかっていません。ただ、The Heritage Trail というホームページによれば、1100年頃(11世紀末)に、聖堂参事会がウィリアム征服王の息子であるウィリアム・ルフスによって認可されたということ(聖別はその後であると目されるので12世紀の初めか?)、サクソンの修道院に勤めた二人の聖職者によって建てられた、英国で最初のアウグスティノ会の教会であったということです。1536年に修道院が解散した後も地区教会として残ったそうですが、18世紀-19世紀には身廊の部分は埋葬場所になっていたそうですから、その時代には建物は破壊され始めていたことになるのでしょうか。この文章の中でも連続交差アーチがノルマン建築の典型としてあげられています。また煉瓦の層は漆喰で塗られ、彩色されていたと言います。一体どんな外観だったのでしょうか?

「イギリスの修道院/志子田光男他/研究社にアウグスティノ会とこの修道院について記述されている。当該書ではこれはコルチェスター修道院と記述されている。当該書によると、アウグスティノ会は1100年頃に結成された修道会の一種で、北アフリカのヒッポの聖アウグスティヌス(354-430)の教えに基づく修道院規則に従って生活していたキャノン・レギュラーと呼ばれる司祭たちによる会派である。その構成員が司祭であることから厳密には修道士による修道会ではない。修道院で修道士と同様に日常の勤めを果たすが、同時に修道院の外にでて、教区教会で日毎の礼拝も司る司祭たちであった。この会派は、学校、病院、救貧院などの運営を行い急速に拡大していった。ここで取り上げた聖ボトフル修道院(コルチェスター修道院)は1100年頃に創設されたイギリス最初の修道院とだけ紹介されている。2006/02/07追記

12世紀始め頃の聖ボトルフ小修道院の西側ファサードには、煉瓦造の連続交差アーチがある。
/図版引用:
St Botolph's Priory
999年建立の小モスク、トレドの「サン・クリスト・デ・ラ・ルス San Cristo de la Luz」の連続交差アーチ。

 煉瓦という共通の素材を使っていた為かもしれませんが、これにも、やはりトレドの小モスクの装飾を思い出さずにはいられません。この小修道院は、アウグスティノ会の教会であったという記述から、part3のクリューニー教団だけでなく、英国のこの時期の修道院教会には、宗派の別なく、このような連続交差アーチが使われていたということなのでしょうか?
 それでは、その出所は一体どこなのか?謎は深まるばかりです。もちろんアラブ人のマスタービルダーが関わっていたということはありそうもないのですが、フランスのル・ピュイの例に見られる様に、アラブの文化がその意味や出所とは関係なしに一つの単なる装飾のエレメントとして定着していたのかもしれません(例えば、キリスト教とは関係のないギリシャ・ローマの文化に関係する柱頭がキリスト教の教会で使われている様に)。また、それがノルマン人に関係のある地域で流行したという点も気になります。1071年にウィリアム征服王が全イングランドを征服した同時期に、ノルマンデー出身のロベール・ギスカールはシチリアのメッシナ(1061)とパレルモ(1072)を征服しているからです。当時のシチリアは東ローマ帝国とアラブの支配下にありましたが、この征服もアラブの別の一族を傭兵として雇い入れた結果の勝利で、ロベール・ギスカールはアラブびいきであったことが知られています。また東ローマ帝国とあるアラブ族が結託し別のアラブ族を襲撃するなど、この時代は宗教的な対立より実質的な営利目的の抗争が目立ちます。ヴァイキングが海賊行為だけでなく貿易もしていたこと、同時期にアラブも地中海で貿易を行っていたことを考えあわせれば、そういった交易の面で、ノルマンとアラブには文化的な交流もあったのかもしれません。そうゆう意味で当時のノルマン系の人々には、それが例えアラブ的なものとわかっていたとしも違和感がなかったのかもしれません。
 いずれにしても、修道院や教会とは言え、当時の価値基準からすれば、宗教的対立ばかりに目をむけると分かりづらいことになるかもしれません。(続きは次回に)


関連リンク
St Botolph's Priory
History


05/05/28//2006/02/07追記

 

inserted by FC2 system