ちょっと似すぎ!?part17 

人型なのか? アルアーシク宮殿のニッチの造形に関わる考察その3

アルアーシク宮殿のニッチに、多弁アーチの原型をみることができることは、ちょっと似すぎpart13で紹介したが、その多弁アーチの下の変形ニッチが気になっている、、、、。

まず不思議なのは、アルアーシクのニッチ(写真A)の構成である。この構成は、バールベクの様なローマ時代の神殿に影響を受けた二段形式のニッチ(写真C)である。通常、その下段のニッチには、頂部にバールベクに見られる様なスカラップで飾られたキュドフォーを持ち、そこには下写真Bの様に彫像が置かれることが意図されたものである。ところが、イスラーム建築ではそのようなニッチに彫像が置かれることは偶像崇拝禁止の教義からあり得ない(キリスト教の教会では聖人の彫像が置かれるが、、、)。モスクのミフラーブのニッチにしても、キリスト教会のアプスと度々比較されるが、これも豪華に装飾されることはあっても、像が置かれることはあり得ないし実例もない。なぜミフラーブでもない壁面にこのようなニッチが作られたのだろうか?

第2に不思議なのが、アーシクの下段のニッチの形状である、その輪郭は、バールベクの様なスカラップの半円形の頂部の半円形の上に、突出した
ポインテッドアーチの輪郭が付け加えられている(このニッチの頭部のくぼみは、結果的に、ムカルナスの一片の形状となっている)。この形状は何を意味しているのだろうか?

私には、このニッチが、人物像に見えてしょうがない。下段のニッチの形状の頭部は文字通り頭、その下の半円形のアーチの部分が肩、下の半円形アーチの延長部分が胴体として見えるのである。思うに、古代ローマの神殿にインスパイアされた工匠たちは、イスラーム教義から彫像を設置することもできず、苦肉の策?として、ローマの彫像の代わりに、人物像を暗喩する形をしたニッチを据えたのではないだろうか?、、、。現代建築と違い、古代の建築では、その初源において、単なる形状の面白さから発生する形態はまずあり得ない。そこにはなにかしらの意味がある、、、、。そこに暗喩により描かれたであろう人物を特定する術はないが、建設を命じたカリフが、正当性を誇示する為に、ムハンマドあるいはカリフに関係する人物を象徴させて造作させたのではないだろうか?、、、イスラーム建築は具象的な表現ができないからこそ暗喩に満ちている。

仮に、この形態がその様な聖なる人物を象徴するものであれば、後の時代に現れる三弁アーチ(写真D)なども、聖なる形態として、この延長線上で発展したものかもしれない。さらにムカルナスの一片の形状をした頭部が、聖なる人物の頭脳、つまり神性や知恵を象徴するものと考えれば、それが集合したドームやイーワンの天井を覆うムカルナスは全くそれに相応しい目出たい、祝福に満ちた形態といえるのではないか? そうであるからこそ、その美しさ以上の力をもってイスラーム建築に広く後の時代に採用されたのはないか?

A:アル・アーシク宮殿の2段構成のニッチ B:古代ローマ時代のニッチの形式 C:バールベク神殿の2段構成のニッチ D:コルドバのアルハカム2世時代のミフラブの装飾


2006/01/13
inserted by FC2 system