マディナ・アッ・ザフラー/Madinat al-Zahra 936-971頃
スペイン語ではMedina Azahra メディナ・アサーラ

後ウマイヤ朝、第9代アミールにして初代カリフ、アブド・アル−ラフマーン三世によって、コルドバの北西約6qの地に936年から35年の歳月をかけて建設された城砦都市(941年に奉納)。建設は息子である後の第2代カリフ、ハカム二世が指揮をとり、彼の治世になって完成に至った。この宮殿でアブド・アッ・ラフマーン三世は、多くの外国の君主や使節に謁見した(ナバラ女王、東ローマ帝国皇帝の使節、南仏、イタリア、ドイツの使節、神聖ローマ帝国のオットー一世の使節など) 。ターイファスの混乱期に宮殿は破壊され(1010年頃)、現在発掘調査・復元中。コルドバのウマイヤ朝の最盛期の建築を知る上で非常に貴重な遺跡(近年の発掘調査の様子を取り上げたホームページを下記に示す)。その建設には後ウマイヤ朝史上空前絶後の繁栄を見た時期の王朝の国家予算の三分の一が費やされ、1万人の労働者が雇用されていたという。工匠たちや資材も、北アフリカ、シリア、ビザンティンなど各地から集められた様だ。当時の国家予算は1200万ディナールであると推測されているから、毎年400万ディナールを消費し、それの35年分であるから1億4000万ディナール、現在の金の価格価値でも建設費に1兆4875億円要したことになる。

プロデューサー 皇太子ハカム2世
建築家 マスラマ・ビン・アブ・アッラー( Maslama bin Abd Allah)を親方とする集団
建築材料の輸送の責任者 アレキサンドリアのアリ・ビン・ジャファル(Ali bin Jafar)
建設業者の総元締め コルドバのアブド・アッラー・ビン・ユヌス(Abd Allah bin Yunus)とハサン・ビン・ムハンマド(Hasan bin Muhammad)
*参考文献:MOORISH ARCHITECTURE IN ANDALUSIA Marianne Barrucand Achim Bednorz Benedikt Taschen 
著者のマリアンヌ女史は、ハカム2世を建築家として位置づけているが、むしろプロデュース的な役割をしたものと考えてよいだろう。

*ここに集められ育成された大量の工匠たちは、その後何処へいったのだろうか? ハカム2世によるコルドバのモスクの2回目の拡張事業、続くマンスールの時代の3回目の拡張、さらにザフラー宮殿の西隣に建設されたアル・アーミリーヤ、マンスールの自身の為の宮殿都市アル・マディーナトゥッ・ザーヒラ(979-981)(現存していない、未確認)など、その後の大事業を見ると、これらは支配者の権威を示すものであったと同時に、ザフラー宮殿で育った工匠たち或いはその師弟たちに活動の場を与えた事業であったと言えるだろう。さらに後ウマイヤ朝崩壊後の、ターイファスの王たちの宮殿(例えばサラゴサのアルハフェリーヤ)や北アフリカ、イフリーキーヤの王朝(ムラービト朝、ムワヒッド朝、その後の王朝)の宮殿やモスクのレベルの高さは、ここで培われた技術をもった工匠たちが、新たなパトロンを求めて拡散した故ではなかったのだろうか?そういう意味でもザフラー宮殿は注目すべき建築物である。


マディナ・アッ・ザフラーの全体配置図。その城砦都市は概ね750m×1,500mの壁で囲まれていた。宮殿自身は中央上部の区域。宮殿はモスクを除いて南向きであった。 ザフラー宮殿の鳥瞰写真
写真出典:
http://arqueocordoba.com/visitas/2visitas/2visita-medaz.htm
宮殿部分のプラン。上はディワン・イアムあるいは公式の宮殿。下はディワン・イカスあるいは私的な宮殿。右にあるモスクはカーバの方角に向けるために角度が振られている。 チャハール・バーグ形式の庭園に通じる装飾的な池の前に「アブ・アルラフマーン三世の部屋」がある。その庭園は4分割され、中央に四阿、その各面に池を持つペルシャ様式。 ザフラー宮殿の修復展示場
写真出典:
http://archnet.org/library/sites/one-site.tcl?site_id=3946
コルドバの強大な統治者の公式の客人を歓待する為のカリフの間。円柱が白色と赤色の迫石が交互に配された馬蹄形アーチを支えている。

アブド・アルラフマーン三世の謁見の間(左)に通じる控えの間の横断景。宮殿建築は当時のモスクの構造的、装飾的様式を数多く使用した。

ザフラー宮殿の復元の様子
写真出典:
http://archnet.org/library/sites/one-site.tcl?site_id=3946

図版出典:Islam vol.1 Taschen


関連サイト
http://archnet.org/library/sites/one-site.tcl?site_id=3946
http://arqueocordoba.com/visitas/2visitas/2visita-medaz.htm
http://www.europanostra.org/lang_en/awards_2004/sp_casa_yafar.htm
http://maps.google.com/maps?ll=37.886170,-4.868145&spn=0,0&t=k&hl=enマディナ・アルザフラの航空写真
http://www.morosicristians.com/costumbresmedina1.htm
http://www.andalucia.com/magazine/english/ed4/madinat.htm

05/10/18//05/10/25//2006/09/05//2006/10/09追記修正
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